スクラムは、複雑な問題に対応するための開発手法です。変化が激しく、不確実性の高い現代社会において、スピーディに価値の高いプロダクトの提供を実現するフレームワークとして注目されるようになりました。
「Professional Scrum Master™(以下、PSM)」は、プロフェッショナル・スクラムとスクラムマスターの役割を理解するための、演習中心のインタラクティブなコースです。このトレーニングと認定資格の提供元であるScrum.org™は、「スクラムガイド」生みの親であるKen Schwaber氏によって設立されました。
現在、80万人以上の認定資格者を有し、グローバルに通用するPSM。資格の受験のみも可能ですが、ITプレナーズでは実践的な学びを得るための研修も提供しています。研修受講にどのようなメリットがあるのか、2017年に来日し、日本語によるPSMの講師を務めるフォンテーヌ・グレゴリーさんに聞きました!
合同会社アゴラックス 代表取締役。Scrum.org™のパートナー企業として研修サービスを提供する、Optilean社認定講師。世界で約350名のプロフェッショナルスクラムトレーナーの1人。スクラムマスターとしての豊富な実務経験を持ち、アジャイルコーチとしても国内外の様々な企業の支援実績がある。
アゴラックス社ウェブサイト: https://www.agorax.jp/ja/home/
Optilearn社ウェブサイト:https://optilearn.co.uk/ja/
PSMでは、スクラムガイドに定義されている5つのイベント(※1)、3つの責任(※2)、3つの作成物(※3)を学ぶことで、スクラムを理解し、実践できるようになることを目指します。
しかし、スクラムを効果的に使用するには、スクラムのメカニズムと基本に従うだけでは不十分です。スクラムチームには、適切な働き方や考え方、マインドセット、信頼、そしてこれらを支援する環境が必要となります。
これら全てを理解することで、Scrum.org™が掲げる「プロフェッショナル・スクラム」を実践できるようになります。
プロフェッショナルスクラムを構成するどれかの要素が欠けてしまうと、デイリースクラムや進捗報告の場がどんどん形骸化してしまい、本来のゴールを達成できなくなってしまうかもしれません。
良いスクラムチームは、スプリントゴールに向かって、メンバーそれぞれが自己管理をしながら計画を立て、協働することができます。そして、積極的にフィードバックを求め、失敗も方向性の変更も恐れないマインドセットのもと日々仕事ができるようになるのです。
※1:5つのイベント・・・スプリント、スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ
※2:3つの責任・・・スクラムマスター、プロダクトオーナー、開発者
※3:3つの作成物・・・プロダクトバックログ、スプリントバックログ、インクリメント
スクラムフレームワークおよびスクラムマスターの役割・責任についての理解を深めたいと考えている、以下のような人たちにおすすめしたいです。
理論からしっかりと説明するので、スクラムマスターの前提知識や実務経験は問いません。また、スクラムマスター以外の役割の方々にも、受講する大きなメリットがあります。
企業のスクラムチームを支援するなかでよくお聞きするのが、IT部門とビジネス部門でサイロ化が生じ、適切な連携や情報共有ができていないという課題です。
そうなると、スクラムチームが本来持つべきアジリティや権限を損ねてしまう可能性があり、ビジネス目標を達成できない要因となり得ます。
スクラムチームを外側から支援するビジネスサイドの方々も、研修を通じてスクラムのメリットを知ることで、スクラムチームのアジリティを高め、必要な支援や対話を行うためのヒントが得られます。その結果、組織が抱えている問題を迅速かつ効率的に解決できるようになるでしょう。
PSMならではのポイントは、大きく3つあります。
研修は、そもそも「ビジネスの現場においてスクラムを取り入れるべき『複雑な問題』とは何か」について、受講者同士でディスカッションするところから始まります。
なぜスクラムが必要なのか、どのようなシチュエーションにおいてスクラムが適用されるべきかを、皆さんに考えてもらうのです。
次に、自分たちの現場はどうなっているのか、どこまで複雑な問題に対応しているのかについても考えてもらいます。
仕事の中には、複雑性の高いものもあれば、顧客のニーズが明確で固定している、もしくは仕事の進め方がシンプルな場合もあるでしょう。後者の場合は、スクラムが必ずしも有効だとは限りません。
実際の業務に置き換えてみると、スクラムをどの業務に導入すればよいのかイメージがついた状態で研修に臨めます。
このように、研修では常に「それがなぜ必要なのか」を理解していただくことを重視しながら進め、受講者の理解度がより高まるような工夫がなされているんです。
PSMは、トレーナーが培ってきた経験や知見から学ぶだけではなく、グループワークによって他の受講者からも新たな気づきを得られるように設計されています。
演習の際には、まず状況を提示して「あなたたちなら、スクラムチームに対してどのように働きかけますか?」と問いかけます。最初から講師がアドバイスはしません。ほとんどの場合、まず初めにチームに分かれてディスカッションを行います。また、全員で集まって意見を交換する機会も多いです。
以前、研修中にウォーターフォールでの開発経験が長い受講者の方から「スクラムを導入するデメリットはないのですか?」と聞かれた際は、受講者全員を巻き込んでの深い議論にも発展しました。集合研修ならではの学びや気づきがたくさん得られると思います。
もちろん、研修講師を務めるプロフェッショナルスクラムトレーナーの質もしっかりと担保されているのが特長です。
プロフェッショナルスクラムトレーナーは、スクラムマスターとしての豊富な実務経験に加えて、スクラムの進め方やプラクティスだけではなく理論や原則についても深い理解を持ち、説明できることが求められます。受講者の方からも、「講師の実体験を交えたエピソードがためになった」「講師の説明により、スクラムへの理解が深まった」といった声を多くいただきます。
また、Scrum.org™は、ウェブサイト内にブログ、ウェビナー、アセスメントなど無料のトレーニングを多数提供しています。実務経験のある方なら、まず無料で何度でも受けられる模擬試験にチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
日本は世界と比べて、スクラムやアジャイル開発の原則が一般的に広まっていません。「なぜアジャイルは日本で広がらないか」について、Scrum.org™のコミュニティブログにも以前記事を書いたことがあります。
日本の商慣習や歴史的背景などさまざまな要因が考えられますが、日本の文化が持つ礼儀正しさやチームワークなどは、スクラムチームの運営において有利になるとも言えるでしょう。
先ほどお伝えしたように、スクラム開発の手法が全てのビジネス課題を解決するわけではありません。ですが、企業やチームが複雑な問題に直面するとき、スクラムの考えは必ず皆さんの役に立つと信じています。
スクラムを取り入れようと考える方、実践してみたもののなかなか上手くいかない、さらに良いチームのあり方を考えたい…そんな方に、ぜひPSMのトレーニングを受講いただきたいと思っています。
グレゴリーさん、貴重なお話をありがとうございました!グレゴリーさんが代表を務める合同会社アゴラックスのサイト内では、「スクラムマスターの学習パス」も公開されています。ぜひ学習計画の参考にしてみてください。
ITプレナーズでは、「Professional Scrum Master™ (PSM)」のトレーニングを定期開催しています。皆様の受講をお待ちしています。