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これまでの資格と何が違うの?どれを勉強すれば?ITIL® 4プラクティス・マネージャーを徹底解説!

2025.3.4

2024年から2025年にかけて、ITIL® 4の上位資格であるプラクティス・マネージャー(PM)シリーズの日本語版が順次リリースされました。

 
プラクティス・マネージャーのシリーズには以下の3つの資格があり、より現場に即した実践的な内容が含まれています。

  • ITIL® 4 プラクティス・マネージャー:Monitor, Support & Fulfill (MSF)
  • ITIL® 4 プラクティス・マネージャー:Plan, Implement & Control (PIC)
  • ITIL® 4 プラクティス・マネージャー:Collaborate, Assure & Improve (CAI)

現在関心が高まっている、このプラクティス・マネージャー資格について、具体的にどのような場面で役立つのか?どうやって取得するのか?誰が勉強すると良いのか?…などなど、本記事では、皆さんの気になるポイントについてお答えします。ITサービスに携わる方や、サービス提供組織で人材育成を担当される方は、学習計画の指針にもお役立てください!

プラクティス認定シリーズ(MSF、CAI、PIC)で学べるプラクティス

ITIL® 4には全部で34の「プラクティス」が存在しますが、プラクティス・マネージャーの3つの資格(MSF、CAI、PIC)では、そのうち下記の15のプラクティスについて学びます。

そもそも「プラクティス」とは

ここまで出てきた「プラクティス」という言葉に馴染みがない方のために、簡単にその意味を説明しましょう。
ITIL®におけるプラクティスとは、「実践」「事例」といった意味です。ITIL® は従来「ITサービスマネジメントのベストプラクティス集(成功事例集)」と謳っており、プラクティスはまさしくその「事例」のことを指しています。ただし、「事例」といっても、個別の組織の具体的な事例ではなく、世界中の組織の参考となるように、汎用的な形でまとめられています。

たとえば、「システム障害が発生した際に、トラブルシューティングが終われば自分の仕事は終わりだと思っていないか? 利用者の目線で見て、サービスが復旧しているかまで確認しないと意味が無いことを意識しよう(インシデント管理プラクティス)」「価値を出し続けるためには、サービスの継続的な改善も意識していこう(継続的改善プラクティス)」といった、各プラクティスの重要性が示されている内容となっています。

ITIL®では、これらを各人が意識するだけでなく、組織立ってマネジメントするためのプラクティスもまとめられています。たとえば、組織に所属する全員が同じ意味合いで同じ言葉を使うために、用語を定義していたり、マネジメントに必要な測定基準の例を紹介していたりしています。

「MSF」「CAI」「PIC」それぞれで学べること

それではプラクティス・マネージャーのシリーズ「MSF」「CAI」「PIC」ではどのようなことが学べるのか、それぞれの特徴について深掘りしていきます。
 

MSF(Monitor, Support & Fulfill)

ITサービスのモニター(監視)とサポート、そして要求の実現のためのプラクティスを学習します。

ITサービスが常に設計した通りに稼働し、利害関係者に価値を提供しているかを確認し、異常が発生した際にはなるべく迅速に検知して対応することは重要であり、そのために、日々の監視は必須です。
また、ITサービスの利用者が困っている際に問い合わせできる窓口(サービスデスク)が存在し、寄り添ってサポートしてくれることほど、ユーザーにとって心強いことはありません。
ユーザーがサービスを使えない状況(インシデント)が発生した際に、迅速に解決してサービスを復旧することも大切です。では、そのインシデントの根本解決や再発防止は最適に管理できているでしょうか?

MSFでは、このようなITサービスの運用に関わるプラクティスを学習します。

 

CAI(Collaborate, Assure & Improve)

ITサービスに関わる関係者とのコラボレーションによって、ITサービスの品質を確実に維持しつつ、改善も実現するためのプラクティスを学習します。

インシデントは多くの場合、ITサービスに何かしら変更を加えた際に発生します。しかし、変更を恐れていると、改善ができず、相対的に品質や価値が下がり、顧客満足度も下がっていきます。価値を維持し、顧客満足度を維持してリピートや他者への推奨を促すためには、ITサービスの安定稼働と絶え間ない改善の両方が必要です。

CAIでは、開発も運用も含めて関係者がシームレスにコラボレーションし、このバランスを取りながら価値を実現するためには何が必要かについて、関連するプラクティスを学習します。

 

PIC(Plan, Implement & Control)

計画を立て、計画を実装し、コントロールするためのプラクティスを学習します。

価値あるITサービスを提供し、更には顧客と価値を共創するために、顧客や現場の声を聞き、そこから改善案を見出し、改善計画を立て、実装していくことは必須です。

しかし、日々の仕事の中で、気が付くと改善活動がおろそかになって進んでいなかった、ということはよくある話です。それは、悪気があったり、怠けていたりするわけではなく、優先度のつけ方やチーム内での認識、計画の進め方や可視化してコントロールする方法などに改善の余地があることが多いのです。

PICでは、大小さまざまな改善を着実に実現していくための方法やそのための参考となる原則について学習します。

 

誰が勉強すると良いのか?お悩み別のおすすめコース

プラクティス・マネージャーのシリーズ「MSF」「CAI」「PIC」が特におすすめなのは、ITIL® 4のプラクティスについて詳しく知りたい方です。つまり、ITサービスの実践者の皆さんです。

中でも「ITIL® 4ファンデーションは合格したけれど、具体的に何をすればよいのかもう少し詳しく知りたい!」と悩んでいる方には、より実践的な内容となるでしょう。「現場の仕事の進め方を改善し、お客様にもっと価値を届けてやりがいのある仕事をしたい」と考えているからこその悩みを解決するアプローチ方法が明示されているためです。

以下では、よくあるお悩みごとに適切なコースの組み合わせをまとめましたので、どのコースにしようか迷ったときに参考にしてください。

MSF
  • サービスの復旧時間を短縮し、顧客への損害を最小限に抑えたいが、どうすればよいかわからない。
  • 同様のインシデントが再発しており、再発を防止するための仕組みをどのように作ればよいかわからない。
PIC
  • 変更のたびサービスが中断して顧客満足度が低下。実施する必要のない変更を進めていることも多く無駄が多い。
  • サービスの構成を管理できておらず、障害対応や変更判断に時間がかかりサービス品質が低下している。
CAI
  • ベストエフォートで「頑張っている」が、顧客満足度が低く、どうすればいいかわからず疲弊している。
  • 改善が一過性で終わりがち。自発的に改善を続けられるように、組織に仕組みとして取り入れたい。

「プラクティス・マネージャー資格」はどうやって取得する?

「プラクティス・マネージャー」という名称が複数の場面で使われるため、少し混乱しやすいですが、これまで説明してきたプラクティス・マネージャーのシリーズ「MSF」「CAI」「PIC」のいずれかひとつの取得に加えて、「ITIL® 4 スペシャリスト:作成、提供およびサポート(CDS)」を取得することによって、「ITIL® プラクティス・マネージャー(PM)」の資格が取得できます。

「ITIL® プラクティス・マネージャー(PM)」資格は、その人が実務者(プラクティショナ)として、ITの実務に責任を持って携わるにふさわしい実践的な知識・方法論を使いこなせる人材であることを証明します。言い方を変えると、顧客志向、価値志向、継続的改善志向のマインドを持つITエンジニアである証にもなります。

この「プラクティス・マネージャー(PM)」についてはあらためて申請する必要はなく、条件を満たすと自動的に付与されます。

なお、セットで必要とされている「ITIL® 4 スペシャリスト:作成、提供およびサポート(CDS)」では、それぞれのプラクティスをどう組み合わせるかというバリューストリームの考え方を学べるため、ぜひプラクティス・マネージャーのシリーズと併せて学ぶことをおすすめします。ぜひ「ITIL® プラクティス・マネージャー」を取得して、実務で活かしてください。

 

よくある疑問:ITIL® V3との相違点

以前のバージョンのITIL® をご存知の方向けに、ITIL® V3との相違点でよくご質問をいただくポイントについて紹介します。

 

①「プロセス」vs「プラクティス」

ITIL® 4になり、これまで馴染み深かった「インシデント管理プロセス」や「キャパシティ管理プロセス」といった表現が、「インシデント管理プラクティス」「キャパシティ管理プラクティス」に変わりました。
厳密には、呼び方が変わったのではなく、範囲が広がりました。
ITIL® 4の「プラクティス」には以下の「4つの側面」が含まれています。つまり、ITIL® 4では、ITIL® V3で「プロセス」に偏りがちだった内容について見直しを行い、プロセス以外の観点も含めてまとめることにしました。
・組織と人材
・情報と技術
・パートナーとサプライヤ
・バリューストリームとプロセス

 

②「4つのP」vs「4つの側面」

ITIL® V3では「4つのP」と呼ばれていた、ITSMにおいて大切な以下の4つの観点が、ITIL® 4でリニューアルされ「4つの側面」となりました。より網羅的で、直感的にわかりやすい内容にリニューアルされたと言えます。

<ITIL® V3の「4つのP」> <ITIL® 4では「4つの側面」>
People(人材) → 組織と人材
Process(プロセス) → バリューストリームとプロセス
Product(技術、ツール) → 情報と技術
Partner(パートナー) → パートナーとサプライヤ

 

③MSF,CAI,PICと、ITIL® V3のインターミディエイトとの紐づけ

MSF,CAI,PICと、ITIL® V3のインターミディエイトとにおいて、対象となるプラクティス/プロセスの関係は以下のようになります。

 

試験の変化

ITIL® V3では、ケーススタディが複数用意されており、しっかりと読み込んで状況をイメージしながら最も適切な選択肢を選ぶという試験でしたが、ITIL® 4では1問あたりの問題文はファンデーションと同じか、少し長い程度の分量であり、選択肢の中に正解は一つだけという形式となりました。多くの問題に対峙しなくてはならず、集中力の維持も要求されます。

最後に

プラクティス・マネージャー資格は、ITIL® 4はリリース当初は計画されていませんでしたが、市場からの強い要望を元にリリースされました。ITIL® 自体が、お客様の声を取り入れながら改善を続けている証拠だと言えます。

プラクティス・マネージャーのシリーズを学習することで、世界のITサービスマネジメントの実践知を得られます。ただし、皆さんがお客様と価値を共創していくためには、プラクティスをそのまま使うのではなく、自組織の環境に合わせてテーラリング(カスタマイズ)することも必要です。現場での実践知が、皆さん自身の貴重なプラクティスとなっていきます。

また、プラクティスを学習されたあとは、ぜひ他の上位資格(CDS,DSV,HVIT,DPI,DITS)も学習されることをおすすめします。そこには、VUCAな時代に必要とされるマネジメントの考え方や組織の在り方、戦略についてグローバルな知見を学ぶことができます。

ITプレナーズでは、ITIL® 4上位資格の研修をオープンコースにて定期開催しています。一社でのプライベート開催も可能ですので、詳しくはお気軽にお問い合わせください。
ぜひ、皆さんのITサービスマネジメントの学びに、ITプレナーズの研修をご活用ください。

「ITIL®マネージングプロフェッショナル(MP)」「ITIL®ストラテジックリーダー(SL)」の各上位コースについては下記の記事で詳しくご紹介しています。