データ&ナレッジ

事例から学ぶSIAM™の活用法と「サービス統合と管理」の本質

2024.9.10

複雑化するIT環境において、重要性が増すSIAM™の考え方

今日、企業を取り巻くIT環境は、かつてないほど複雑化しています。

ITサービスの品質が向上し、ネットワーク、インフラ、アプリなど、それぞれ専門分野に特化したITサービスプロバイダーのサービスを活用するマルチベンダー環境は当たり前になっています。

さらに、クラウドの活用が進み、社内システムと外部サービスが混在するIT環境も一般的になりました。SaaSの普及により、IT部門が関知せず事業部門の現場でSaaSアプリが導入されてしまい、企業のガバナンスが脅かされる問題も発生しています。

こうした状況下で、多くの企業が複数のベンダーやITサービスの効率的な管理という課題に直面しています。従来の管理手法では対応しきれないケースも増える中で、取り入れたいのが「SIAM™」の考え方です。

SIAM™とは、Service Integration And Managementの頭文字であり、「顧客組織がビジネスにフォーカスし、俊敏な変化とイノベーションの実現に向けて、複数のサービスプロバイダから調達した複数のサービスをシームレスかつ効果的にコーディネートするためのマネジメント方法論」です。

ガートナー社が発表したハイプ・サイクルのレポートでも「エコシステムのサービス統合と管理」が黎明期に入ってきたと記されています。これはまさしくSIAM™のことを指しており、SIAM™の重要性が増してきていると言えるでしょう。

実際に、SIAM™はどのような場面で活用できるのでしょうか?

本記事では、ITベンダーを経験し、SIAM™研修の講師を務める筆者が自らの経験や周りで起こった3つの事例をもとに、SIAM™の効果的な活用について解説します!

事例1:課題山積のマルチベンダー環境を改善

まずは、実際にあった怖い話から……。

大手企業の情報システム子会社であるA社は、複数社のITベンダーとの付き合いにおいて大きな混乱が生じており、自社のビジネスへの悪影響も出ていました。

  • 幹部達はそれぞれITベンダーを抱えて派閥争いをしており、そのため、社内には複数のITベンダーが入り込んで勢力争いをしている
  • 社員の技術力は低く形ばかりの管理のみで、実働は外部ベンダーのエンジニアが担当しているが、社内の政治力学で物事が決まるため、疲弊しきっている
  • システムの運用監視ツールはITベンダーの数だけ導入されており、統合されていない
  • 各ITベンダーは自分たちが提供しているITサービスの構成情報のみを管理しており、全体を統合管理している人がいない(A社の社員は、自分たちの仕事だと考えてもいない)
  • 全体構成を把握している人がいないため、システムのアップグレードや定期メンテナンスが毎回失敗し、バックアップも正常に戻らないことがほとんどである
  • 全体を統制したテスト環境が無いため、機能検証も正確性を欠き、リリース後にインシデントが多発する

このような状態ではITベンダーもA社自身も疲弊するばかりです。

そこで、ITベンダーの中の一社が立ち上がり、「自分たちが、他のITベンダーが提供するサービスも含め、全体を管理する」というアウトソーシングの形態を提案し、ようやくガバナンスとコントロールが効く状態になりました。

当時はまだSIAM™が発表されていませんでしたが、SIAM™でいうところの「リードサプライヤ・インテグレータ」に近しい考えを適用した事例だと言えます。

具体的な施策として、自分たちの役割と責任を定義し、複数のITサービス全体の管理と統制についての指針、関係する全ITベンダーとの契約条件や協働の仕方について、などを整備していきました。

複数のベンダーにアウトソースしており、かつベンダー各社とのやり取りを個別に行っている場合、全体の整合が取れず、サービスの価値を最大化できない可能性があります。こうしたケースでは、SIAM™の導入が非常に効果的です。

事例2:ライバル会社との関係構築を見直し、共に顧客価値を追及

次に、ハートウォーミングなお話を紹介します。
ある企業におけるITサービスの開発案件をC社が勝ち取り、コンペに負けたD社が、C社のアンダー(配下)に入る体制となりました。

C社はD社に対して、以下のような姿勢を徹底しました。

  • 「言われたことだけやっていればよい」という態度で指示を出す
  • 顧客の情報を徹底的にコントロールし、D社に流さない(例えば、顧客との定例会に呼ばない、議事録を共有しない、顧客の声を伝えない、など)

D社の担当者は、仕事のやりにくさと顧客に充分な価値を提供できないことへの焦燥感を抱いていました。

そのような中、次期バージョンの開発について、入札の機会が訪れ、今度は逆にD社がその案件を勝ち取り、コンペに負けたC社が、D社のアンダーに入る体制となりました。

その際、D社の担当者は、C社とは正反対の方針や姿勢でコミュニケーションを取りました。つまり、顧客情報を共有して、2社で同じように顧客の課題や意見を把握・理解し、One Teamとなって価値提供を実現することを目指したのです。

結果、両社はシームレスに連携し、お客様の課題と要望をともにリアルタイムに理解し対応できるようになり、お客様からの評価が非常に高くなりました。

この事例は、所属組織に関わらず、俯瞰的・総合的な視点で「顧客がビジネスにフォーカスできるように何をすべきかを追及していく」という、SIAM™が目指す本質的な考え方を表していると言えます。

後日、このD社の担当者は、筆者が講師を担当するSIAM™ ファンデーション研修を受講されました。SIAM™で説明されている「マルチソーシング環境」における課題が、まさに当時悩んでいたことである、と納得感が高かったそうです。

「あの時SIAM™を知っておけば、もっと楽だったにちがいありません。今後、他の案件で同じような課題に直面した際に、もっとうまく進められるようにしっかり理解して身に付けたいです」と、積極的に研修に参加されていました。

ちなみに、今もC社とD社はライバル関係にありますが、当時の担当者同士は今でも飲みに行く間柄だそうです。

事例3:SIAM™の体系的な知識を習得し、より説得力のある複数ベンダー体制の統合方法を提案

最後に、筆者が講師を担当するSIAM™ファンデーション研修に、IT企業で管理職を務めるEさんが受講されたときの事例を紹介します。

Eさんは、ITサービスの管理責任者であり、ITSM(ITサービスマネジメント)のフレームワークであるITIL®の資格を取得し、その知識を活かして現場のマネジメントを実践されていました。

その顧客企業には、Eさんの所属企業以外にも複数のITベンダーが関わっており、それぞれ得意とする分野(インフラ、ネットワーク、個別の業務アプリなど)に分かれてサービス提供がなされていました。各サービスの管理はITベンダーごとに委ねられており、一定レベル以上の品質は維持されているものの、全体視野で見た場合に、もっと効率的な方法や効果が出る(顧客の事業成果に結びつく)管理方法や統制の仕方がある、とEさんは感じていました。

そこで、「複数ベンダー体制のマネジメントを一手に引き受ける」提案を考えていたタイミングで研修を受講。

Eさんはその時点では、SIAM™がどのような内容なのか全く知りませんでした。ITIL®に並ぶITSMに関する研修の一環で申し込んだところ、その内容がちょうどご自身の悩みを解決するヒントになったとのことです。

複数ベンダー体制の統制が急務だと考えて提案書を作成していたのですが、自己流でまとめていたので『本当にこれでうまくいくのだろうか?抜け漏れは無いだろうか?』という不安がありました。

そんな時にSIAM™の研修を受講し、自分の考え方は間違っていなかったことが裏打ちされ、提案内容に自信が持てました。また、考慮していなかった観点を補完したり、専門的でグローバルに通用するような表現を活用することもでき、提案内容がより説得力のあるものになりました

Eさんのコメント通り、SIAM™という体系立てた知識を学習することは、現場への提案や施策の実行をより推進することにつながります。

まとめ

3つの事例から言えることは、以下の2点です。

  • SIAM™の本質は、顧客にとっての価値を、複数のサービスプロバイダーのそれぞれの責任範囲を越えて俯瞰的に考え追及することにある
  • SIAM™という体系的な知識を学ぶことで、不足していた観点や知識を補完でき、マルチソーシング環境における価値創出に役立てることができる

SIAM™導入のステップとして、まずSIAM™に書かれている「方法論」や「フレームワーク」を体系的に学び、その上で自らが立ち向かっている現場の課題に照らし合わせて活用していくと効率的です。さらに、実践結果から得た知見を付加していくことで、自分たちの競争力の源泉となっていくでしょう。

著者紹介

渡辺 義明

ITILを中心とするITマネジメント分野のインストラクター。妻ひとり、わんこ一匹(シー・ズー)とともに千葉県に在住。1988年、富士通大阪ソフトウェアに新卒入社。IT基盤の統合運用サービスの立ち上げに従事。2007年、日本アイ・ビー・エムに転職。ITIL関連の講演演活動や顧客のIT運用業務のアセスメントと改善コンサルティングを実施。2017年、田舎暮らしをするために高知県に移住。茄子農家を目指す。2018年 諸事情により千葉に戻る。ITプレナーズジャパン・アジアパシフィックに入社。以降現職。

監修者紹介

最上 千佳子

システムエンジニアとしてオープン系システムの設計、構築、運用、教育など幅広く経験。2008年、ITサービスマネジメントやソーシング・ガバナンスなどの教育とコンサルティングを行う日本クイント株式会社へ入社。2012年3月、代表取締役に就任。ITプレナーズジャパン・アジアパシフィックとの統合を経て、現職。ITサービスマネジメント、リーン、アジャイル、DevOpsなど、ITマネジメントの強化によってビジネスの成功に貢献するためのコンサルティングに従事。


ITプレナーズでは、習熟度に応じた2つのレベルのSIAM™研修を提供しています。

定期開催されているオープンコースのほか、個社開催も可能です。詳しくはぜひお気軽にお問い合わせください。