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ビジネスと組織を変える「アジャイル」とは?基本の考えと活用法を徹底解説

2024.12.26

市場環境が急速に変化する現代、企業は時代に合わせて従来型の仕事の進め方からアップデートしていく必要があります。一方で、「新規プロジェクトがうまく進まない」「顧客の要望が急に変わる」といった課題に悩む方も多いのではないでしょうか。

その解決策として注目を集めているのが「アジャイル」です。もともとソフトウェア開発の手法として生まれたアジャイルですが、今では製品開発やマーケティング、新規事業開発、さらには人材育成まで、ビジネスのあらゆる場面で活用されています。

この記事では、アジャイルの基本的な考え方から実践方法まで、わかりやすく解説します。

アジャイルとは

「アジャイル」は「小さな一歩を素早く踏み出し、実践しながら改善を重ねていく」物事の進め方・考え方です。「素早さ」「機敏」を意味する「Agility」という単語に由来しています。

アジャイルの考えを簡単に表現すると、顧客のニーズがより高いものから優先的に着手し、短い期間で小さく作ることで、価値提供までのスピード短縮を実現することを指します。また、顧客からのフィードバックを早期に取り入れ、継続的な改善につなげていくのも、アジャイルな仕事の進め方の特徴です。

市場の変化に柔軟に対応しながら、より価値の高いものをより早く生み出し、顧客に届け続ける。それがアジャイルの本質です。

 

アジャイルの成り立ち

アジャイルは、もともとソフトウェア開発におけるフレームワークの一つとして誕生しました。2001年にアメリカ・ユタ州で17名の開発者たちによって「アジャイルソフトウェア開発宣言」が提唱され、その考えが広まりました。

文書では、以下の左側の項目にも価値を認めながらも、右側の項目により価値を置くとされています。

プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を (「アジャイルソフトウェア開発宣言」より引用)

アジャイルの考えには、世界的に有名なものづくりの考え方である「トヨタ生産方式」や、野中郁次郎氏と竹内弘高氏が1986年に発表した論文「The New New Product Development Game」など、日本で培われた知見や方法論も大きく反映されています。

 

従来型の進め方(ウォーターフォール)との違い

アジャイルの考えとよく対比されるのが、従来の開発手法である「ウォーターフォール」です。

ウォーターフォール型とは、滝が上から下に流れ落ちるように、計画から運用まで順序立てて段階的に進めていく手法です。先に仕様をすべて決めて、一つの工程が完了してから次の工程に進むため、後戻りが難しいのが特徴です。

【進め方の違い】

ウォーターフォール型:
要件定義(3ヶ月)→基本設計(2ヶ月)→詳細設計(2ヶ月)→開発(4ヶ月)→テスト(2ヶ月)→リリース
⇒ 合計13ヶ月かけて全機能を一括リリース

アジャイル型:
最も重要な機能を決定(1週間)→設計・開発・テスト(3週間)→リリース→フィードバック収集と改善→次の機能開発へ
⇒ 1ヶ月で最初の機能(価値)を届け、その後も継続的に改善

※参考例:実際の期間や進め方は、プロジェクトの規模や特性によって大きく変わります

この2つの手法は、適している場面がそれぞれ異なります。
たとえば、要件が明確で変更が少ないシステムを開発するプロジェクトでは、ウォーターフォール型のほうが適している場合もあります。

一方、以下のような場合はアジャイル型が効果的です。

  • 要件が不明確または変更が多い(例:新規サービス開発、Webアプリケーション)
  • 早期リリースが重要(例:ECサイト、スマートフォンアプリ)
  • 顧客の反応を見ながら改善したい(例:マーケティング施策、UI/UX改善)

プロジェクトの特性(規模、複雑さ、リスク、スケジュールなど)を見極め、適切な手法を選ぶことが、顧客への提供価値および企業の競争力を高めるカギとなります。

なぜ今、アジャイルが注目されているのか

前章で、ウォーターフォール型のほうが適しているプロジェクトもあると説明しました。しかし『DX白書2023』によると、今や米国では80パーセント近くの企業がアジャイルを取り入れており、日本でも近年、多くの企業がアジャイルの導入を始めています。

それはなぜでしょうか。背景には、ビジネス環境の大きな変化があります。市場環境が大きく変化する中、従来型の仕事の進め方では対応が難しい課題が増えており、特に以下の3つの変化が、アジャイル採用の重要な背景となっています。

1. デジタル化の加速

AIや5Gなど、技術革新のスピードが加速度的に上がっています。新しい技術を活用したビジネスモデルが次々と登場し、企業間の競争も激化しています。

このような環境下で、決められた全ての機能を実装してからリリースするという従来の開発手法では、市場投入までに時間がかかりすぎてしまいます。

要件を固め、設計、開発、テストを経てようやくリリースする頃には、世の中の状況が変わってしまい、完成品が「古いもの」になってしまう可能性が高まりました。それゆえ、より早いスピードでの価値提供が求められているのです。

2. 顧客ニーズの多様化

さらに、複雑なビジネス環境において、顧客が向き合う課題も多様化しており、それに対応するソリューションにも個別化やカスタマイズへの要求が高まっています。

こうした時代に、画一的な製品やサービスを提供するだけでは、もはや顧客の期待に応え続けることができません。顧客の声に耳を傾けながら、素早く改善を重ねていく必要性が増している時代になったと言えます。

3. 不確実性の増大

新型コロナウイルスのパンデミックは、予測不能な環境変化が起こり得ることを私たちに示しました。また、国内にとどまらず海外企業の参入によるグローバル競争の更なる激化や、環境規制などの社会的要請への対応など、企業を取り巻く不確実性は増す一方です。

このような状況下では、計画通りに物事を進めることが難しく、状況に応じて柔軟に方向転換できる能力が重要になっています。

アジャイルが組織にもたらすメリットとは

では、アジャイルはこれらの課題に対してどのような解決策をもたらすのでしょうか。アジャイルを組織に導入することで期待される、主なメリットを3つ説明します。

1. 「ムダ」を防ぎながら、より高い価値提供ができる

アジャイルでは、開発サイクルを短くすることで、従来のアプローチでは難しかった「早い段階から顧客へ価値を提供すること」と「柔軟性」の両立を実現します。

たとえば、新しいWebサービスを開発する場合、すべての機能を完璧に作り込んでからリリースするのではなく、まずは顧客のニーズがより高い、最も優先されるべき機能に集中して開発を進めます。それを実際に市場に出してユーザーの反応を見ながら、段階的に機能追加や改修を行うのです。

このアプローチにより、市場投入までの時間を大幅に短縮できます。同時に、実際のユーザーの声を聞きながら開発を進められるため、本当に必要な機能を見極めることができ、無駄なプロセスや作業を減らすことも期待できます。

2. 新しいアイデアを試しやすくなり、イノベーションが促進される

アジャイルは、組織のイノベーションを生み出す力も高めます。短い期間で最小の動くものをリリースできるため、新しいアイデアを試しやすくなります。従来のように大規模な計画を立ててから実行する場合、失敗のリスクが大きいため、チャレンジングなアイデアを試すことが難しくなりがちです。

一方、アジャイルでは、その期間中により多くの小さな実験や試行錯誤を重ねることができるため、イノベーションが起こりやすい環境を作ることができます。

3. トップダウン型から、一人ひとりが考え実行する「自律型」の組織へ

アジャイルの導入は、組織全体の活性化にもつながります。従来の組織では、上位者が計画を立て、現場はその通りに実行するというトップダウン型の進め方が一般的でした。一方、アジャイルでは、現場のチームに大きな権限が委譲されます。

チームは自律的に判断を下し、状況に応じて柔軟に軌道修正することができます。また、定期的な振り返りミーティングを通じて、メンバー間でコミュニケーションを取り、互いの課題を共有し、助け合う文化が育まれていきます。

このように、アジャイルは現代のビジネス課題に対する効果的な解決策となります。ただし、これらのメリットを最大限に引き出すためには、適切な導入方法と組織的な取り組みが必要です。

アジャイルをどう始めればいい?スムーズな導入に向けての4つのヒント

アジャイルのメリットを理解できても「具体的にどう始めればいいのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。大規模な組織改革を目指す前に、まずは小さな範囲から始めることをおすすめします。

1.経営陣の理解を得て、組織内へ浸透させる

アジャイルの導入には、経営層の理解と支援が不可欠です。まずは経営陣との連携を重視し、理解を得るようにしましょう。特に、DXや企業の競争力向上との関連付けが有効です。

また、アジャイルでは、チームメンバー一人ひとりが自律的に考え、行動することが求められます。そこで、部門や役職に関係なく、様々な立場の人が一緒に学ぶことも重要です。また、一部のメンバーだけがアジャイルを理解している状態では、スムーズな導入が実現しません。導入の初期段階で、アジャイルの基本的な考え方や進め方について、チーム全体で認識を合わせることが大切です。

2.挑戦しやすい組織文化を醸成し、メンバーとの対話を重ねる

組織変革において重要なのが、文化の醸成です。役職や立場に関係なくフラットなコミュニケーションができ、新しいアイデアや改善提案を積極的に出せる「心理的安全性」の高い環境を作っていきましょう。具体的には、定例会議での発言順を役職順にしない、チーム内でのカジュアルな相談を推奨するなど、日常的な場面での工夫が効果的です。

中には、変化に対して否定的な反応を示すメンバーもいるかもしれません。そういったメンバーに対しては、丁寧な対話を重ね、変化の必要性とメリットを粘り強く説明していくことも必要となるでしょう。

また、組織として「失敗を恐れない」マインドを持つことも欠かせません。失敗を責めるのではなく、その経験から学び、次のアクションに活かせる環境づくりを心がけましょう。

3.段階的に展開する

アジャイルの原則は、「小さく始める」ことです。導入にあたっては、5〜7名程度の小規模なチームから始めるのが理想的です。たとえば、新規プロジェクトの立ち上げや、既存の業務改善など、具体的な課題に取り組むチームを選びます。チームが小さいほど、コミュニケーションが取りやすく、新しい進め方に慣れていきやすいためです。

次に、2週間から1ヶ月程度の短い期間で達成できる具体的な目標を設定します。「来年までに売上を2倍に」といった大きな目標ではなく、「今月中にプロトタイプを作る」「来週までに顧客の声を集める」など、明確で具体的な目標を立てます。これにより、チームメンバーが成果を実感しやすくなります。

4.フィードバックとプロセス改善を繰り返す

短い期間で区切った活動の後には、必ず振り返りの時間を設けます。チーム内で「何がうまくいったか」「何が課題だったか」「次はどうすれば良いか」を率直に話し合うことで、継続的な改善のサイクルを生み出します。

たとえば、毎日15分程度の短いミーティングを通じて「昨日やったこと」「今日やること」「困っていること」を共有します。このシンプルな習慣が、チームメンバー間の協力を促進し、問題の早期発見・解決につながっていきます。

こうした小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体にアジャイルの理解と受容が広がっていきます。アジャイルの導入は一朝一夕にはいきませんが、小さく始めて着実に進めることで、確実な変革への道筋が見えてきます。

まずは自組織に合った形で第一歩を踏み出し、その効果を確認しながら徐々に適用範囲を広げていくことをおすすめします。

アジャイルの導入・実践を検討されている方へ

アジャイルの効果を耳にはしていても、実際にどのような変化が起こるのか、イメージがしにくい方もいるかもしれません。

アジャイルの導入を成功させるためには、ワークショップやゲーミフィケーションを活用して「まずは体感してみる」ことをおすすめします。実際に体験し、そこで得た学びや気づきを活かしてより良くしていくというアジャイルの本質を、学びの過程自体で実践できるためです。

さらに「講義→実践→振り返り」のサイクルを繰り返すことで、アジャイルの価値や実践方法をより自然に習得することができます。

ITプレナーズでは、アジャイルの基礎が学べる初心者向けのコースから、現場ですぐに活用できる実践的なワークショップ、グローバルに価値が認められているScrum.org™のスクラムトレーニングなど、組織のアジャイル実践度に応じた幅広いレベルの研修を提供しています。

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