ITプレナーズは2024年10月23日、Scrum.org™が提唱する「Professional Scrum」の価値や意義を語り、日本におけるアジャイル・スクラムのあり方を共に考えるオンサイトイベント「Scrum Sunrise2024」を、Scrum.org™社・Optilearn社との3社共催で開催しました。本レポートで、イベントの様子やセッションの内容をお届けします。
「Scrum Sunrise 2024」では、Scrum.org™のCOOであるエリック・ネイバーグ氏の基調講演をはじめ、ビジネスの現場でアジャイル・スクラムを実践している方々に企業内での取り組み事例や成果、挑戦の過程から今後の展望までお話しいただくトークセッションを実施しました。
昨年は完全招待制で開催し、ご好評をいただいたため、今年は一般参加のお申し込み枠をご用意。セッション後はパーティーも開催し、スクラムに関心のある様々な業種・職種の方々との交流を楽しみました。
開催日時:2024年10月23日(水) 13:30-20:00(18:00-20:00ネットワーキングパーティー)
会場:大崎ブライトコアホール
イベントページ:https://www.itpreneurs.co.jp/event/20241023scrumsunrise/
最初のセッションは、Scrum.org™のCOO エリック・ネイバーグ氏による基調講演です。
スクラムの実践における重要なポイントとして、スクラムを単なるプロセスやフレームワークとして取り入れるのではなく、価値を生み出すためのマインドセットを持つことが重要だと語られました。
従来のようなプロジェクト型の開発では、プロダクトが完成する頃にはすでに古くなってしまっている可能性もあります。エリック氏は、変化の時代でイノベーションを生み出すために、成果や価値を重視する「プロダクト開発モデル」を紹介しました。「小さく学びながら、小さく試す」を繰り返し、フィードバックを受けながら改善を重ねていく姿勢が必要だと説きました。
また、製薬会社やジレット社の事例を通じて、スクラムの効果的な実践方法についても紹介。形式的なスクラムの導入・実践を超えて、チームが適切な判断ができるように権限を持ちながら、自律性とオーナーシップを発揮することの大切さを繰り返し伝えています。
アサヒグループホールディングス株式会社のIT and Transformation Organization Innovation Teamに所属する小山 佳織氏は、同社のアジャイル導入の現状と挑戦の過程について語りました。
大企業ゆえ、現場で会社のゴールやビジョンが見えづらくなっていることに課題を感じていた同社。そこで、自主自律的な組織づくりのカギとして着目したのが「アジャイル」でした。2021年春から「デジタルネイティブ組織」を目指し、全従業員がデジタル技術やデータ分析を使いこなせる組織づくりを進めています。
アジャイル・スクラムの実践において「まだ結果は出ていないが、自分たちにできる小さなアクションを積み重ねている」と現状を率直に語る小山氏。部署横断で課題解決に取り組むクロスファンクショナルチームの結成や、経営陣によるビジョンについての議論進行など、一つずつ積み上げていく同社の歩みが印象的なセッションでした。
合同会社アゴラックス 代表取締役のグレゴリー・フォンテーヌ氏による、全員参加型のワークショップも行われました。
会場にいる約200名の参加者が3人1組のグループに分かれ、スクラムチーム内の各役割が異なる意見を持つ緊迫した状況に対して、プロダクトオーナー・開発者・スクラムマスターの3つの視点から、どのようにふるまうかを議論しました。ワーク後、参加者の方から様々なアイデアが提案されました。
グレゴリー氏は、このシナリオには「正解」はないとしつつ、チーム全体としての共通責任(価値のある使用可能な状態のインクリメントを作成すること)を意識する重要性を指摘。ワークを通じて、参加者が主体的に考え、意見交換を行う場となりました。
MSD株式会社 ワクチン本部 HPVワクチンマーケティンググループ アソシエイトディレクターの田村 憲吾氏は、マーケティング組織におけるスクラム実践と、リーダーシップ・組織づくりとの結びつきについて語りました。
同社では、システム開発のみならず、オペレーション組織やプロダクトマーケティングの領域においても幅広くスクラムを実践されています。
田村氏は、チームマネジメントに携わる中で、自身のリーダーシップスタイルについて「完璧を求める」から「MVPを重視する」へ、「チームのアクションを全て把握したい」から「権限移譲する」へシフトしていったと説明。スプリント終了時にレトロスペクティブ(ふりかえり)を通じてメンバーの声を積極的に聞き、心理的安全性を確保することで効果的な成長支援を実現しました。
「アジャイルは、仲間と顧客への愛情」という言葉に象徴されるように、顧客課題に柔軟に対応しながら、チームメンバーの成長も促進できる手法としてのスクラムの可能性を示した講演でした。
株式会社北國銀行で執行役員およびグループ会社の代表取締役社長を務める岩間 正樹氏と、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ DX推進本部 内製開発グループの松﨑 一孝氏による対談セッションでは、地方銀行におけるアジャイル開発・内製化への取り組みについて語られました。
北國フィナンシャルホールディングスでは、2008年頃の金融業界として異例とも言える早い段階から内製化を推進。経営トップが明確なビジョンを示したこと、中間管理職をはじめとした行員の共感と強いフォロワーシップが、改革を成功に導いた要因だと語ります。
一方、ふくおかフィナンシャルグループは、ヨーロッパの銀行を視察したことで危機感を覚えた経営層により、2018年に本格的な内製化を開始。システム開発を「ベンダーに依頼する側」から「自ら考え価値を提供する側」への意識改革に苦心しながらも、着実に内製開発を進めています。
両氏とも、アジャイル開発の成果として「リリース頻度の向上」や「柔軟な対応力の獲得」を挙げました。さらに、従業員満足度の向上や事業成果にもつながっていると語ります。最後に、地方銀行には「地域の発展を支える重要な存在」としての役割があり、デジタル化を通じて地域とともに成長していきたいという思いが共有され、対談が締めくくられました。
すべてのセッション終了後には、立食形式でのパーティーを実施。セッション登壇者の方々も交え、ベンダーやアジャイルコーチとして顧客の開発を支援している方、事業会社にてアジャイルの取り組みを先導中の方など、様々な役割を担う参加者が垣根なく交流を楽しみました。
参加者の方からは「普段のアジャイルイベントでは出会えない方との、新たなつながりが生まれた」と感想をいただきました。
ほかにも、今回のイベントにお寄せいただいた声をいくつか紹介します。
「スピーカーの皆様の具体的な事例を交えたエピソードは説得力があり、実践的な観点で理解することができました。ビジネス視点での取り組み方のヒントもいただき、大変有意義なイベントでした」
「登壇された方々はバックボーンや現職場でのアジャイル浸透度も様々で、広い視点での学びがあり、とても楽しい時間になりました」
「ITだけでなく事業・ビジネスの観点から改革に取り組まれている事例が揃っていて、非常に興味深かったです」
「講演内容はいずれも興味深く、大変勉強になりました。 同じテーブルの方とワークショップで意見交換できたのも良かったです。ネットワーキングパーティーでは、多くの方とお話をさせていただくことができました」
SNSでも多くの方にイベントについて投稿いただき、中にはこのように素敵なグラフィックレコーディングを書いてくださった方も!
昨年に続き参加してきました!社内シェア用にグラレコも描きましたのでお裾分け。
— よっちゃん|アジャイル|グラレコ|グラファシ (@yotchan_gr) October 23, 2024
形だけスクラムが増えてきている今だからこそプロダクト運営モデル、OutputよりOutcomeという言葉が印象的だった。そしてエリックさんの名刺がめちゃ分厚かったぞ!#ScrumSunrise2024 #グラフィックレコーディング pic.twitter.com/4tFd81b4DN
ITプレナーズは、今後もアジャイル・スクラムに関心のある方、実践中の方を支援し、国内におけるスクラムの活動をますます盛り上げていけるような情報提供や取り組みを行ってまいります。アジャイル・スクラムの組織浸透や人材育成に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
Scrum.org™は、スクラム共同開発者であり、スクラムのバイブル的存在「スクラムガイド」の著者であるKen Schwaber氏が2009年に立ち上げた団体です。ヨーロッパを中心に世界100万人以上の認定資格者がおり、スクラムマスター向け、プロダクトオーナー向けのコース以外にも、デベロッパー向けなど幅広くトレーニングと資格を提供しています。