九州全域にネットワークを構築し、国内最大規模を誇る地域金融機関である、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ。地域経済発展へのさらなる貢献に向けて、2022年に「DX推進本部」を立ち上げ、デジタル活用を推進しています。
2024年2月、同部署でITプレナーズが提供する「フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修(以下、フェニックスプロジェクト)」を社内の方が認定講師を務める形で実施いただきました。
本研修では、様々な問題を抱えた架空の企業の一員となり、続々と発生する問題に協働して対処しながら業務を遂行し、どのようにDevOpsを実務環境に適用するかを実践的に学ぶことができます。研修実施の狙い、受講後の成果や行動変容について、講師役を務めた松﨑様、受講された黒田様、坂井様に伺いました。
フェニックスプロジェクト DevOpsシミュレーション研修
私たち3名はDX推進本部に所属し、お客様のニーズや社会の変化により速く柔軟に対応すべく、グループ全体のDXやプロダクト開発の内製化を推進しています。
その中で、私は主に法人向けプロダクトチームのスクラムマスターとして活動しています。同時に、開発部門だけでなく、組織全体にアジャイルマインドを浸透させるための活動も積極的に行っています。
個人向けのバンキングアプリなど、主に個人のお客様を対象としたプロダクト開発を担うチームの統括をしています。フェニックスプロジェクトの受講時は、お客様の個人情報変更手続きをWeb上で行えるアプリケーションの開発チームでテックリードを務めていました。
SRE担当として、各プロダクトのインフラ構築や、開発を円滑に進めるための社内向けツールの作成などに取り組んでいます。部内のメンバーがスムーズに開発を進められるようサポートすることが主な役割です。
外部の勉強会に参加する中でフェニックスプロジェクトの存在を知り、ITプレナーズ主催の体験会への参加をきっかけに「この研修を当社でも実施したい」と考えました。
この研修の特徴は、受講者が同じ会社の一員として異なる役割を担いながらミッションを遂行するという、実際の職場に近い設定で実施する点にあります。社内において役割を超えた協働の方法を学ぶ良い機会になるだろうと確信しました。
今後の定期的な実施も見据えて、フェニックスプロジェクトを社内で開催できるように認定講師のライセンス取得を目指すとともに、初回の社内実施に向けて準備を進めました。DX推進本部内で受講者を募り、実施に至ったのが2024年2月のことです。
コロナ禍でのリモート勤務などの影響もあり、同じ部署内でもメンバー間にどこか壁がある点を組織課題として捉えていました。自身の担当業務を全うし縦割りで業務を行う、もともとの企業風土も影響しているように思います。
フェニックスプロジェクトは、多様なチームのメンバーが一堂に会して参加できるので、お互いを知れるきっかけになればと、実施を心待ちにしていました。
受講当時は入社から半年も経っておらず、皆さんの担当業務や人柄をあまり知れていない状態でした。そのせいか、皆さんに対して相談や質問を遠慮してしまうところがありました。
しかし、現場では自分の所属するチームだけで完結するようなタスクはほとんどありません。部内のメンバーとフェニックスプロジェクトに取り組むことで、周りとの良い連携の仕方を学べるのではないかと期待していました。
同じDX推進本部に所属しているものの、業務上の関わりが少ないメンバーもいる中、やや緊張感のある雰囲気でスタートしました。1ラウンド目では、各自がそれぞれの担当業務を把握することに精一杯で、連携を取るどころではありませんでした。
昼休憩後のふりかえりで講師役の松﨑さんから働きかけを受けて、3ラウンド目からは考え方や進め方を大きく変えてみることにしました。直接的なアドバイスではなく、私たちに改善を促すような効果的な問いかけをしてくださってありがたかったです。
フェニックスプロジェクトでは、スタート時点で「すべての情報を与えられていない」状況下に置かれます。そのため、全員がまず何をするべきか、どのように動くべきか戸惑っていました。振り返ってみれば、それこそが研修の狙いだったのですよね。
私たちは当初、IT部門役とビジネス部門役のメンバーが完全に分断された状態でシミュレーションを進めてしまっていました。これは実際の現場でも起こり得る状況です。分断に気づいても、協働に向けて今までのやり方を変えるのは簡単ではなく、私たちは「何も変えない」選択肢を取ってしまいがちです。
しかし、やはりそのままでは組織全体として良い方向に進めません。この研修を通じて、私たち全員に「思い切って変えてみよう」「まずは試してみよう」というマインドセットが醸成されたと感じます。
また、自分の業務を遂行するだけではなく、他のメンバーも巻き込んでいくスタンスに変化していきました。
研修では様々なミッションが降りかかりますが、限られた時間内ですべてに対応するのはほぼ不可能です。ひとりで解決しようとするのでなく、周りのメンバーと議論することで、優先順位づけと取捨選択を素早く判断できていったように思います。
全員が共通のゴールに対して認識を合わせ、目標達成のために各自が持つ情報をオープンに共有することの重要性を学びました。また、無意識のうちに「担当業務は自分で完結させなければならない」と思い込んでいたことにも気づきました。役割を超えて全体で議論し、協力し合うことで、より効果的な成果が得られるんですよね。
自分の担当業務に集中することは良い面もありますが、むしろそれが組織全体で事業を進めていく上で障害となる場合もあると理解しました。
さらに、改めて認識したのがふりかえりの重要性です。「なぜうまくいかなかったのか」を全員で議論して、全体のボトルネックを特定する。そして、次への改善策を検討・実行するプロセスを通じて、成功も失敗も自分たちの知見として蓄積していく経験ができました。
今回の受講メンバーにはアジャイル開発を実践しているメンバーもいたため、ある程度スムーズに進むだろうと考えていました。しかし、予想に反して困難を極めたことはなかなか衝撃的で、自組織を見つめ直す良い機会となりました。
研修の中で大きな混乱が生じた要因は、普段の業務を「慣れ」で行ってしまっているゆえ、状況が変化したときにうまく適応できなかった点にあると考えます。「何のために行うのか」を業務に限らず常に考えられるようになって、ようやく自分のものになったと言えるのだと気づかされました。
特に坂井さんのいるチームとの関わり方が大きく変わりました。以前はインフラ系の設定を依頼する際など、坂井さんたちの業務状況が見えずに遠慮してしまい、相談しづらさを感じる場面も多かったのです。
しかし、研修を通じて皆さんの人となりを知り、共に失敗と成功を経験したことで、気軽に相談できる関係性を築くことができました。結果として、業務がより円滑に進むようになったと感じています。
研修受講後は、私たちの最終的な目標である「プロダクトを迅速かつ問題なくリリースすること」に立ち返り、わからないことは躊躇せず即座に質問するようになりました。必要な情報を即時に共有し合えるようになったことで、悩んだり遠慮したりしている間に発生する時間を削減できたと思います。
受講したメンバーからは「今までにないくらい学びのある研修だった」と言ってもらえました。部内のコミュニケーションや各自のモチベーションに好影響があったと感じます。
特筆すべきは「なぜ研修であれほどの良い体験ができたのか」について後日さらにふりかえりを行い、日々の活動につなげようとする動きが、講師発信ではなく受講者から生まれたことです。
一日という短い時間の中で、失敗から成功までのプロセスを全員で共有し、共感する機会を持てたことは非常に有意義でした。ふりかえりを重ねて継続的改善を目指す、アジャイルの手法を自然と取り入れ、その効果やメリットを実感できたことも大きな学びです。今後も、組織内でこうした建設的な議論を継続していきたいと考えています。
我々の組織には多くの既存ルールや古いツールが存在し、それらが当たり前になっている部分が少なくありません。しかし、フェニックスプロジェクトの体験を通じて、それらが必ずしも絶対的なものではないと認識を改めました。問題解決のために、ときには新しいツールの導入や不要なプロセスの廃止を検討するなど、より柔軟な思考で業務改善に取り組んでいきたいと考えています。
社名 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
業種 銀行
創立 2007年4月2日
資本金 1億1千万円
ウェブサイト https://www.fukuoka-fg.com/
ビジネス推進の鍵となる部門間のコラボレーションを、ゲーム形式で楽しく、手を動かしながら実践的に学べる研修です。
短期間で新サービスをリリースしなければならない危機的な状況にある組織が、さらに様々な困難に直面しながらも、チーム間の連携で成功への道を切り開いていく書籍「The Phoenix Project(邦題:The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー)」をベースにしています。
研修では、物語の流れに沿ったシミュレーションを通じて、参加者自身がビジネス部門・開発部門・運用部門に分かれて役割を担い、チーム間のコラボレーションや次々と発生する課題への対応を体験できます。
※取材は2024年5月に行いました。
取材・文:Yui Murao