事例紹介

シチズン時計が挑戦するデジタルサービス海外展開。事業拡大を後押しした「プロセス改善」の取り組み

シチズン時計株式会社様
研修事例
2024.6.5

変化の激しい時代に適応するため、製造業は今「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトが求められています。その中で、ハードウェアとしての時計に新たな価値を吹き込むIoTプラットフォーム「Riiiver(リィイバー)」を開発・提供しているのが、シチズン時計株式会社(以下、シチズン時計)です。

2019年のリリース後、サービスが軌道に乗り始めたタイミングで、サービスの運用プロセスに課題を抱えていたという同社。そこで、ITプレナーズと約1年半にわたる「プロセス改善」に取り組みました。

支援の背景や得られた成果について、現場で伴走したITプレナーズの最上 千佳子を交え、Riiiverを手がける事業企画センター オープンイノベーション部 部長の大石様、Riiiver推進課 課長の松王様、同じくRiiiver推進課の加藤様にお話を伺いました。


・プロセス改善サポート

  • デジタルサービスの運用プロセスに関する知見・ノウハウ不足
  • インシデントに対する根本的な要因分析や再発防止が不十分
  • 他部署との役割分担や責任範囲があいまいな状態
  • 業務の属人化が解消され、部門全体の生産性が向上
  • 業務フローの可視化により、他部署との調整がスムーズに
  • より価値を生み出すための開発作業や施策検討に集中できる体制に
  • サービスのユーザー数が前年比最高の伸び率を達成

順調な開発とサービス拡大の一方で抱えていた「運用面」への課題

——Riiiverのサービス概要を教えてください。
大石さん

Riiiverは、スマートフォンの専用アプリを介して、時計をインターネットにつなぐことができるIoTプラットフォームサービスです。アプリから独自の設定や機能をカスタマイズすることで、ユーザーの好みやライフスタイルに合わせた使い方が可能になります。

松王さん

「時計製品を販売してユーザーの手に渡った後も、利用者に寄り添いながら中長期的な価値を提供できないか」と考えたことから、サービスの構想が始まりました。そこで、誰でも簡単にノーコードで機能の作成や入れ替えができるプラットフォームの構築に至ったのです。

 

——皆さまの担当業務についてお聞かせください。
大石さん

私は、Riiiverや時にまつわる体験ができるバーチャル空間「CITIZEN Timeless City」など、デジタルコンテンツを手がけるオープンイノベーション部にて責任者を務めています。

 

松王さん

私はRiiiverサービスの発起人として、チームの立ち上げ当初からプラットフォームのシステム開発と保守運用に関わっており、現在は、Riiiver推進課の課長を務めています。

加藤さん

私は、Riiiverに関わる新たな施策や機能の立案から実行までを担当しています。

——どのような経緯で、ITプレナーズとともに「プロセス改善」に取り組み始めたのでしょうか?
松王さん

私たちはメーカーなので、「モノ」を製造・販売した後のアフターケア体制はもちろん整えています。一方で、継続的な改善やユーザーとのコミュニケーションが不可欠となるデジタルサービスに関しては、運用のノウハウや知見が不足していました。

 

Riiiverも、アジャイル開発によってサービスを「作る、生み出す」プロセスは順調に進みました。インシデントが発生した際も、エンジニアメンバーによる速やかな対応・解決が可能です。しかし、運用プロセスや仕組みの観点などから、根本的な要因分析や再発防止への取り組みができていなかったのです。

 

緊急対応に追われると、本来着手すべき開発業務にも集中できなくなってしまいます。メンバー全員が「このままではいけない」と危機感を抱いていました。

 

大石さん

2019年8月にRiiiverをリリースしてから数年が経ち、0→1の立ち上げ期から、1を10、そして100に拡大していくフェーズを迎えました。

 

法人向けや海外へのサービス展開を予定する中で、サービスの運用レベルをもう一段上げることが急務でした。そこで、ITサービスマネジメントの専門家である最上さんをはじめとしたITプレナーズの皆さんに「プロセス改善サポート」をお願いしようと決めたのです。2022年4月より、約1年半の間ご支援をいただきました。

プロセス改善によって、サービスの成長に直結する本質的な開発に取り組めるように

写真左から、加藤さん、大石さん、松王さん、ITプレナーズ 最上
——プロセス改善サポートは、どのような流れで行われましたか?
松王さん

まず、最上さんには「Riiiverとはどのようなサービスなのか」をはじめとして丁寧に現状をヒアリングいただきました。

 

最上

最初に、ユーザーから見たサービスの価値について突き詰めていきました。日々の業務において「より価値の高い、優先度の高いことに集中する」マインドに変わっていただきたかったためです。次に取り組んだのが、サポートプロセスとサポート体制の現状整理および改善案の図示でしたね。

加藤さん

私たちは普段から他部署との連携が必要な場面も多いのですが、部署間の役割分担や責任範囲があいまいな状態だったことも課題の一つでした。業務フローの可視化によってそれらが明確になったため、他部署への相談や調整もスムーズになったんです。

大石さん

ITプレナーズの皆さんにご支援をいただく中で「今までモヤモヤしていたものがはっきりと見えるようになった」という印象が強いです。運用体制を整えるためには、まず現状の整理と可視化、そして本質的な課題と改善策を明らかにするプロセスが重要だと痛感しました。

——一連の支援を通じて、組織にはどのような変容が生まれましたか?
大石さん

適正な人員、適正な体制で開発・運用業務を回せるようになりました。業務フローが可視化され、あらゆる業務が属人化していた状態から抜け出せたことが大きかったです。

 

サービスの立ち上げ以来、これまでは組織規模やメンバーの顔ぶれを大きく変えずに進めてきました。今後は、異動者や新入社員が組織に加わっても、スムーズなキャッチアップが可能な状態になったと思います。

 

最上

サービスに長く携わっている社員の方が多いと、それぞれが頭の中で業務を理解している分、改めて業務の可視化や共有を行う機会をなかなか持てないものですよね。だからこそ、皆さんには「新しく加わったメンバーがすぐに立ち上がる環境になっていますか?」と、繰り返し問いかけるようにしていました。

 

また、御社の場合は、管理業務における責任者の役割が、課長である松王さんに集中していました。今すぐには難しくても、ゆくゆく権限を分散させることも目指したかったのです。

 

松王さん

今では、すべての業務を自分が管理する状態が解消されました。これも、業務の棚卸しができたおかげだと思います。

加藤さん

実務担当者の立場では、サービスに対する要望が出た際、開発部門として対応すべき作業の優先順位づけも容易になりました。以前は「とにかく来たものから対応する」という仕事の進め方で、何をしたら望む成果を得られるかの判断基準も持てていなかったんです。

 

現在は、それらの声をまずは受け止めつつ「本当に変更するべきなのか」と、一度立ち止まってチームで議論ができるようになりました。

 

松王さん

議論の内容には大きな変化が生まれましたよね。「どう対応するか」だけではなく「さらなる効率化のため、どのように改善するべきか」と話し合う場面も増えました。サービスの運用面を考慮して、のちのち技術的負債が生まれそうな部分を事前に防ぐ動きも出てきています。組織全体に、サービスマネジメントに対する意識が高まったと感じています。

最上

組織の責任者である大石さんは「メンバーからのレポートが劇的に変化した」とおっしゃっていましたよね。

大石さん

これまでは、協力会社にエスカレーションする必要のあるインシデントが発生した場合、自分がメンバーに対して状況や経緯を一から聞く必要がありました。支援いただいた後は、メンバーが的確な状況報告に加えて、解決策の見立てやプラスアルファの提案までしてくれるようになったのです。

 

管理者としてスピーディな意思決定につながっており、メンバーたちを非常に頼もしく感じています。一連の支援を通じて、組織全体で目指すゴールに向けて目線を揃えることができました。

Riiiverは過去最高の伸び率を達成。メーカーの「コトづくり」を進化させ続けたい

——プロセス改善サポートが、サービスの成長に寄与した点はありますか?
大石さん

2023年度、Riiiverはユーザー数とMAU(月間アクティブユーザー数)が前年比最高の伸び率となりました。

 

要因はいくつか考えられますが、エンジニアがより価値を生み出すための開発作業に集中できる体制が整ったこと、業務効率化によって生み出せたリソースをユーザーデータの分析・活用に充てられるようになったことが大きいです。

 

私たちは「ユーザー数の拡大に向けて何をすべきか」という議論をしっかりと行える組織へと変わりました。これらの成果は、プロセス改善なくしては得られなかったと感じています。

 

松王さん

実際に、開発チームではデプロイの回数が増えています。今まではやりたくてやっているというよりも、問題が出たから対応しなければならないという状況だったんです。予定して予定通りデプロイする、エンジニア組織としてあるべき姿に近づけました。

——今後の展望をお聞かせください。
大石さん

今後は、さらなる海外展開を目指します。北米とイギリスに進出するタイミングで「このままの体制でサービスを拡大して大丈夫なのか」という問題意識から、ITプレナーズの皆さまにお世話になりました。

 

Riiiverは、末永く支持されるデジタルサービスを目指し、3年後、5年後、その時々に合わせたアップデートを図っていく必要があります。これまで以上に提供範囲を広げていくにあたり、新たな課題やニーズが見つかるはずなので、その際にはまたご支援いただければ幸いです。

 

最上

御社がサービス事業を拡大していかれる未来が楽しみです。ITプレナーズは、メンバー一人ひとりが自律・自走できる組織づくりを、これからも全力で支援してまいります!

 

松王さん

プロセス改善は、Riiiverの開発部門に限らず、全社的に導入することが望ましいと思います。私たちのようなメーカー企業は、昔ながらの売り切り型のビジネスモデルから、時代に合わせてサービスを提供し続けるビジネスモデルへシフトしていかなければなりません。会社の誰もが「モノづくり」から「コトづくり」へ意識を変容させる第一歩としても「プロセス改善サポート」は有効だと感じています。


お客様情報

社名  シチズン時計株式会社
業種 精密機器メーカー
創立  1930年5月28日
資本金 32,648百万円
ウェブサイト https://www.citizen.co.jp/

Riiiverサービスサイト
https://riiiver.com/

ITプレナーズの現場支援サービスについて

ITプレナーズは、実務経験豊富な専門家やアジャイルコーチ等と連携し、お客様の課題に寄り添った支援を行います。各種サービスを通じて、メンバーが自走できる自律的な組織づくりに伴走します。


※取材は2024年4月に実施しました。
ライター:Yui Murao